辛島輝治デビュー50周年リサイタル
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実は辛島氏の演奏、今まで聴いたことがなかったのです。客席で審査するお姿がすっかり私のデフォルト値…。
プログラムのシューベルトのピアノソナタ3曲。
ソナタ イ短調 Op.163 D.537
ソナタ ニ長調 Op.53 D.850
ソナタ 変ロ長調 遺作 D.960
プログラムに書かれた氏の挨拶には、下のように書かれています。
30歳のころシューベルトの音楽を見つめることが始まりその魅力に取り込まれて今迄片時も離れず演奏してきました。今日は3曲のソナタを選びました。シューベルトがピアノ・ソナタの作曲を始めた1817年の初期の即興曲のような小規模なソナタ、1825年作曲の華麗で親しみのある大ソナタ、最後の年1828年作曲の深遠で偉大なソナタ、夫々を味わって頂けると幸いです。
氏は1959年に東京芸大卒業。70歳を過ぎた老ピアニストによる、枯淡のシューベルトを想像していたのですが、いい意味で期待は裏切られることに。“歌”がまるで青年の声なのです。イ短調のニ長調、共に第2楽章の若々しい“歌”に、耳を奪われました。
思わず、ダグラス・マッカーサー元帥が座右の銘としていた、サミュエル・ウルマンの詩「青春」の一節が目に浮かびました。
青春とは人生のある期間を言うのではなく心の様相を言う。優れた創造力、逞しき意志、炎ゆる情熱、怯懦を却ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心、こう言う様相を青春と言う。年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる。
きっとね。理想を失わないから、“歌”は若々しいのでしょう。
しかしなぁ、10月に聴いた弘中孝氏といい、私の師匠といい、最近、70代の「青春力」にうならされます……。
あと、ピアノの演奏は「姿勢」が大切だと思った。氏はどちらかというと細身で華奢な体格だけど、ピンと背筋を伸ばした姿勢がまったくブレない。軽くストンと腕が落ちているので、見た目以上にホールに音が伸びている。とても燃費のいいスタイルじゃないだろうか。
年老いても長く長く演奏するには、やっぱり姿勢が重要だわ。
アンコールも、シューベルトのソナタ イ長調 Op.120 D.664の第2楽章と、二つのスケルツォよりD.593-1。最後まで“歌”があふれた素晴らしい50周年リサイタルでした。
左下は、リサイタル終了後、ロビーでご挨拶される辛島氏。私も一言、ご挨拶したかったのですが、とにかくすごい長い列だったのであきらめました。