初めての歌舞伎座『仮名手本忠臣蔵』体験
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先週は平日に会社を半休して、人間国宝・中村吉右衛門演じる『仮名手本忠臣蔵』を観に、新しくなった歌舞伎座に出かけました。
私は10代から妙なこだわりがあり、歌舞伎座とバイロイト祝祭歌劇場は「本当の大人」になってから行くものだ!と決意してました。ザルツブルグ音楽祭や国立劇場は、その限りではありません。バイロイト音楽祭と吉例顔見世大歌舞伎は別格だと‥‥私の勝手なこだわりです。
「本当の大人」とは年齢は50歳くらい、ヨーロッパまでビジネスクラスの飛行機で出かけられる経済的余裕があって、ただ仕事ができるのではなくベースに知性と教養がある男性、一昔前のダイナースカードのCMに出てきそうな男性のイメージです。大人には、年齢に見合ったステージがあると思っています。
さて、結局、50歳を前に歌舞伎座に出かけてしまったわけですが、「本当の大人の“本番”への予行演習」にはよかったかと思いました。
というのも、今回、歌舞伎マイスターな先輩に連れて行ってもらい、歌舞伎ならではマナー、楽しみ方を現場で教えてもらったのですが、ちゃんと教えてもらわないと知らずに恥ずかしい思いをする可能性があるな、と思いました。
例えば、歌舞伎特有の「はりまや!」なんていう観客の掛け声。屋号を持つ家がお礼を渡して“上手い人”にお願いしたりそうですが、基本的には観客誰でも掛け声をかけていいと。ただ、独特の間合いがあり、場数を踏んでない人がやると、本人は得意でも、劇場が痛々しい空気になることがあるみたい。たいてい銀座のホステス等、若い女性を連れた爺さんが、女性にいいところを見せようとやってしまうそうです。たまに劇場が冷めざめとしたツンドラ状態になるときがあると言ってました。
とはいえ、初心者がやってはいけないというわけでなく、初心者でも勇気を持ってシャイにかけ声をかけるのは、歌舞伎ファンの間で温かい目で見てくれるものだと。ただ、調子に乗って場の空気を読まずにやりすぎるとひんしゅくを買うらしいです。要は観客もサッカーでいう12人番の選手というか、サポータースピリッツが求められるってことですね。
さて、今回は3階A席6000円の座席。舞台を見下ろすような場所です。座席についての感想は、想像以上にステージの左右幅が大きいこと、通常の大ホールの1.5倍くらいの幅がありそう。あと、前後の座席の間隔が狭かった。1階の桟敷席なら余裕があるのかもしれませんが、体格の大きな外国人が長時間の観劇をするのは、ちょっと厳しいのでは。
肝心のお芝居ですが、こちらは有名な演目なのでNHKの放送で何度か視ていたし、忠臣蔵そのもののストーリーは理解しているので、十分に楽しめました。
今回観たのは、午後4時30分開演の夜の部で、五段目の「山崎街道鉄砲渡しの場」から、十一段目の高家済部屋本懐の場」まで、全4時間半あまり。朝の部の「大序 鶴が丘社頭兜改めの場」は11時開演なので、すべてを通しで観ると、なんと10時間あまりに!
中村吉右衛門の大星由良之助はもちろん素晴らしかったが、中村錦之助演じる敵役、小林平八郎がカッコよかった。正直な感想をいうと、歌舞伎ビギナーなので、豪壮な十一段目の高家討入りの場面(20分あまり)だけでも十分満足できたかも。
ところで、歌舞伎というのは娯楽性にあふれていて、驚きの場面で「じぇじぇ」と言ったり、栗を捨てて「滝川“クリステル”」と洒落てみたりと、決して高尚な芸術にとどまらないものだとも思いました。
また、幕間にはスポンサーによる華麗な緞帳の披露があったり、廊下には何げに素晴らしい日本画が飾られていたりと、お芝居以外にも楽しめる要素がふんだんに盛り込まれてました。
そして何よりうれしいのが、劇場内が飲食自由なこと! 廊下にはお弁当屋、お菓子屋、土産物屋が軒を並べていて、テーマパークのような遊び方ができる。私も、アンフライを頬張りながら観劇しました。
次はぜひ、『勧進帳』を見てみたいです。
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