佐村河内守「ピアノソナタ 第1番・第2番」初演ツアーへ
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「秋の日曜の昼下がり、娘と東京オペラシティでピアノリサイタルを聴いて、その後、代官山でショッピング&ディナー」というのがバブル世代のオヤジの憧れだった。
まぁ、そんな憧れはともかく、先週日曜の昼下がり、東京オペラシティのピアノ・リサイタルへ出かけた。佐村河内守「ピアノソナタ 第1番・第2番」世界初演ツアー。ピアノはソン・ヨルム。娘と行くプログラムではないな(笑)。
佐村河内守氏は、今、日本でもっとも旬な現代作曲家だろう。数年前から注目を集めていたが、今年3月に放送されたNHKスペシャル「魂の旋律~音を失った作曲家~」で、一躍“時の人”となった。今回のピアノソナタの初演ツアーも全国各都市で50公演行われるという。
NHKオンデマンドでこの番組は見られるので、ぜひご覧になることをおすすめします。
さて、7月に交響曲第一番「HIROSHIMA」の演奏を聴いたが、今回のオペラシティのリサイタルも、現代音楽、いや普段クラシック音楽のコンサートに出かけそうにない人までが来場し、一階席はほぼ満席状態だった。ただ、私の前の座席の3分の1のご老人は、演奏中、爆睡されていたけれど(笑)。
響きが華やかな交響曲に比べると、長大なピアノソナタ2曲を続けて聴くのは、クラシック音楽を聴きこんでいないとなかなかしんどいと思う。
ただ、彼の作品は「交響曲」「ピアノソナタ」というクラシック音楽のど真ん中の作法、精神を愚直に追求したものなので、主題の展開、循環形式といった知識があれば、クラシックファンなら初めて聴いても十分に味わえるものだ。
うがった見方をすれば、飛び抜けて斬新なアイデアというものはない。交響曲のどこかはマーラー風、ショスタコーヴィチ風であり、ピアノソナタのどこかはリスト風であり、スクリャービン風であり、と聴こえなくもない。しかし、斬新性を追求するあまり、ホラー映画のBGMのようになってしまった現代音楽にはない、「懐かしさ」「温かさ」「熱さ」を、私は感じるのだ。
演奏は若き女性ピアニスト、ソン・ヨルム。圧倒的な集中力で2曲の長大なピアノソナタを弾ききった。素朴に「プロはすごいな!」と思った。前半の第1番は黒のドレス、後半の第2番は白のドレス、その鮮やかな対比も新鮮だった。
第1番と第2番。やはりロマンティックな第2番の方が印象に残ったかな。早く楽譜を出版してほしいものだ。
終演後は佐村河内氏も舞台に上がって、ソン・ヨルムさんと抱擁。こういうシーンも現代作曲家の演奏会ならではだな。
佐村河内守「鎮魂のソナタ」
演奏/ソン・ヨルム
発売/日本コロムビア
『NHKスペシャル』で大反響を呼んだピアノ曲「ピアノのためのレクイエム イ短調」が、作曲家・佐村河内守の創作のひとつの頂点を成す壮大な作品「ピアノ・ソナタ第2番」として完成。さらに、「ピアノ・ソナタ第1番」、2011年に初演された小品「 ドレンテ ~こどものために~」を収録。演奏は、世界的ピアニストのソン・ヨルム。(Amazonより)
以下は作曲家・佐村河内守氏自身による楽曲の紹介。
ピアノ・ソナタ第2番は、当初、震災犠牲者に捧げる《レクイエム・イ短調》の拡大版として着想されました。しかし、私は、被災地に実際に足を運び、現地の方との触れあいや自分自身で見たものから、どこにもぶつけようのない悲しみや怒りの感情を直接感じたのです。私は、このソナタを、《レクイエム・イ短調》の単なる拡大版ではなく、自分が感じた被災地・被災者への強い思いを込めた、(個人ではなく)被災されたすべての方々に捧げる新たな作品として書き上げる決意をしました。その結果、新しいソナタは、壮大かつ超絶技巧を駆使した心ある鎮魂ピアノ・ソナタとして、巨大な命を持って生まれ変わったといっても過言ではありません。 この曲は、祈りと悲哀に満ちた完全調性による超絶技巧ゆえに、心技体すべてを持ち合わせたピアニストでなければ、決して弾き得ないものです。天才的な才能を持ち、また人としても非常に素晴らしいピアニスト、ソン・ヨルムに演奏されることで、この曲は初めて真価を発揮できることでしょう。彼女の特性や魅力が最大限に引き出せるこの曲は、まるでソン・ヨルムのために新たに書き上げられた鎮魂ピアノ・ソナタとも言えるのです。