リハビリとしての中田喜直「前奏曲」
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だけど、平均律はなんせ“重い”。
「弾く」というより「取り掛かる」イメージだ。気構えというか、気合いというか、弾く前の集中力が必要。「気」がないと、1、2度弾くだけでクタクタになって、「今夜はもういいや」と、週末は思わずピアノの蓋を閉じてしまった。
そこで、自室の楽譜棚をいろいろ探って、一冊の薄い楽譜を引っ張りだした。中田喜直作曲『小さい手のためのピアノ曲集』。奥付を見ると昭和51年11月に第一刷発行。手元にあるのは、昭和53年(1978年)の第三刷。定価は450円(今は1260円)。
この楽譜を買ったのは、確か中学二年生くらいのときだ。どこかの誰かのピアノ発表会に出かけた際、この曲集に収められている「変奏的練習曲」を弾いている女の子がいて、自分でも弾いてみたくなったのがきっかけ。
楽譜を買って帰って、ピアノを前に開いてみると、なかなか面白い練習曲が7曲入っていた。
● 前奏曲
● うれいと悲しみと
● 新チェルニー1番
● 走れ・ホ調
● お人形の子守歌
● 3度の練習曲
● 変奏的練習曲
この曲集、当時習っていたピアノの先生に見てもらったりはしなかったけど、趣味(?)でひと通り弾いた。
第1曲目の「前奏曲」。作曲家自身、次のように解説している。
この曲は、ショパンの前奏曲とは違って、本当に一番最初にひく前奏曲です。それは次の理由によるものです。スポーツをするときに、かならず軽い準備運動をしてから始めます。それはひじょうに大切なことです。ピアノも同じように、いきなり曲を、そのテンポでひくことはよくありません。ふつう、ハノンなどゆっくりひいたりしますが、ハノンではあまり面白くありません。私はバッハのフランス組曲第5番の最初の曲をゆっくりひきます。しかし、これは一般向きではありません。それで、この曲はそのような目的に作ってみました。まず、ゆっくり美しい音で2回くらい、3回目で次第に速くしてゆきます。強弱は自分で工夫していろいろかえてもかまいません。
確かに3、4、5の指がバランスよく弾けるようになっている。テンポも「AdagioからAllegrettoまで」とある。和声進行がモダンで美しい箇所も好き。
この曲をAdagioで弾いてみた。何だか、指のヨガ(?)みたい。何より平均律第二集のロ短調より、はるかに軽い気分で楽しく弾ける。しばらくこの曲、弾いてみようかな。
小さい手のためのピアノ曲集
美しい音のための練習曲 演奏会用曲集
作曲/中田喜直
発行/音楽之友社
この曲集は、バイエルが終わった後、チェルニーの30番を弾き始めた人ぐらいから、上級に近い人(上級者でも結構)までのための曲集です。名前は練習曲集とついていても、私はショパンの練習曲のように、美しい音楽ということを主眼に作曲しましたので、演奏会でひいてももちろん結構です。(作曲家による「まえがき」より