芝居「テイキングサイド」@銀河劇場の感想
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20世紀を代表する指揮者、ウィルヘルム・フルトヴェングラーが、第二次大戦後、ナチスに協力の疑いを受け、戦犯審理を受ける。その過程を舞台に、相反しつつも離れることができない「政治と芸術」の関わりについて問う芝居だった。
原作はロナルド・ハーウッド、演出が映画監督で知られる行定勲。音楽は2時間に渡り、フルトヴェングラーとベルリン・フィルハーモニーが演奏するベートーヴェンの交響曲が用いられていた。
政治に翻弄されるフルトヴェングラーの姿を、平幹二朗が圧倒的な重厚感により演じていた。舞台に立つだけで説得力を持つ稀有な俳優だ。
一方、フルトヴェングラーを追い詰めるアメリカ軍アーノルド少佐役の筧利夫は、最初から最後まで出ずっぱり。機関銃のようにセリフをまくしたてる。つかこうへいの芝居を思わせるスピード感。
“動”の筧利夫と“静”の平幹二朗が対比され、見応えのある芝居だった。
「ちょっとフルトヴェングラーが美化されているきらいがあるな」と思っていたら、後半、アーノルド少佐の夢と目覚めのシーンで、「芸術=至高の存在」という盲点をついてみせた。“芸術家というポジションの傲慢さ”(私自身もクラシック音楽の演奏家に時折感じることがある)を、戦争とホロコーストの現場をかいくぐってきた「無教養なアメリカ軍人」が痛烈に批判する。
結論をいうと、フルトヴェングラーとアーノルド少佐、二人の対決(そして、政治と芸術の対立)に終わりはない。ラストのベートーヴェンの交響曲第9番の第1楽章が印象的だった。
「テイキングサイド ~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~」公式サイト
下は製作記者発表の様子。
カラヤンとフルトヴェングラー(幻冬舎新書)
著者/中川右介 発行/幻冬舎
クラシック界最高の名声と金そして権力が集中するベルリン・フィル首席指揮者の座。ナチス時代、その三代目に君臨する巨匠フルトヴェングラー。彼は誠実な音楽の僕でありさえすればよかった、比類なき才能と野心をもった青年カラヤンが現れるまでは―。嫉妬の炎を執拗に燃やし詐略をめぐらす巨匠、巧みに抗うカラヤン、そこに巨匠を慕う無名の田舎音楽家チェリビダッケが加わり、争いはさらに複雑になる。クラシック黄金時代の美と欲望のドラマ。(Amazonより)